ポケスペ剣盾編10月(12月)号の感想
今月号も面白かったです。
で、わたし普段は月毎の感想は書かないんだけれど、マスタード師匠の言葉が妙に引っかかったのでそれについて少しだけ。
ちょっとだけセリフを引用しているので単行本派の人はご注意あれ。
むずかしい問題ちゃんだね。
人の命、ポケモンの命はこの星よりも重い。
でも、その命はこの星があってこそ。
では、この星を守るために犠牲になる人やポケモンが出ていいのか?
危機をもたらしたポケモンや人の命は守らなくていいのか?
(コロコロイチバン!12月号,『ポケットモンスターSPECIALソード・シールド』,p95,太字は筆者による)
このセリフ、おそらく元ネタがあって、それはわたしが太字部分にした「人の命、ポケモンの命はこの星よりも重い。」のところ。
それは1977年のハイジャック事件で、人質の解放のためにテロリストの要求を呑むと決めた際に時の首相が口にしたという「一人の生命は地球より重い」という言葉。
…マスタード師匠。
仮にポケスペの世界が現実と似たような歴史を持っていたとしても、こんなの創人・しーちゃん・マナブが知っているわけないよ〜。
わたしだって生まれてすらいないし、日下・山本先生だってきっとまだ子どもだったはずだよ…
ちなみにさらに言うと、ちょっと調べた感じこの「元ネタ」にはさらに元ネタがあり、戦後まもない頃(1948年)のある裁判の判決文にあるらしいのです。
しかもその「元ネタの元ネタ」にも元ネタがあって、それは明治時代の本の一文らしい…ってもうこんなところまでは今すぐには追えません。
興味がある人はぜひ追ってみてください。
また、今となってはどちらかというと元の文脈を離れて平和主義、あるいは“平和ボケ(?)”の象徴みたいな揶揄・皮肉としての使われ方の方が多いかもしれませんね。
わたしが最初どこかで知ったのも確かそんな後者としての使われ方だったはず。
一度まとめましょう。
予想される元ネタとしては以下の4つで、
- 1977年のハイジャック事件
- 1948年の最高裁判決
- 明治時代の本
- それら以降の何かしらの「象徴」として
マスタード師匠がどれを元ネタにしているかは判然としませんし、そしてもちろん直接の元ネタではないにせよ、おそらくこれらの内のいずれかがイメージあるいは念頭にあったのだと思います。
ここからは少しだけ考察。
ただ、“元ネタ”に関しては、わたしはいずれの当時の社会的なコンテキスト(文脈)を知らないため迂闊なことは言えないので、あくまでポケスペの描写に限って。
このマスタード師匠のセリフは、マナブくんの
そんな…!
今はガラルを襲う未曾有*1の危機のさなかですよ!
その危機を退けることがなによりも優先されるべきでしょ!?
(コロコロイチバン!12月号,『ポケットモンスターSPECIALソード・シールド』,p95)
に対してのもので、そこを踏まえて考えると
「危機的状況では手段を選んでいる場合ではない」
あるいは
「目的は手段を肯定しうる」
という問題提起に対する答えという感じです。
また、そうだとした場合、上記の「1.」が元ネタっぽくなっても来ますね。
で、このマスタード師匠の答えは
「どんな物事にもいろいろな面があるよね」
というような直接の回答ではない、ある意味かなり「遠回り」なものでしょう。
ただ、ここをちょっと深読みすれば、ここでマナブくんのいう「危機的状況では手段を選んでいる場合ではない」とか「目的は手段を肯定しうる」はローズ委員長の思想に近いともいえるものであり、
こういう「考え方」こそが現在のガラルを襲っている問題の根っこであって、「むしろ今だからこそそこまで含めて考えてみてもいいんじゃない?」みたいなマスタード師匠からの新しい問題提起みたいにも思えたり。
…と言いつつも、わたしはマスタード師匠がそこまで考えて言ったとはあんまり思わないけれど。
そういう意図って言外に自然と伝わって“いやらしく”なったりするもので、マスタード師匠の人柄からはそんな感じしないものね。
意図があったとしても、彼の人柄を考えたら「案外、遠回りにこそ突破口があるかもね」くらいの力感ではないかなぁ。
「教え諭す」ことに対してマスタード師匠はかなり慎重ですもんね。
以上、単行本まで待とうかなとも思ったんですが書きたくなったので書いてみました。
ちなみにわたしは元ネタの「一人の生命は地球より重い」は最初に知った時から一貫して微塵もピンと来ないです。
とはいえ冷笑する気にもならないけれど。
これは比較不能な二者を比較している時点でレトリック(比喩)であって、「言葉の定義を厳密にしたり」だとか「実際に二者を比較」してもあんまり意味はなさそうです。
本当に「ネコにこばん」を与えても意味がないのと同じ。
この言葉の真意みたいなものがあるとすれば、それは「こう言えばみんな納得してくれるかな?」みたいなところにあるのかなぁ。
わたしは納得できませんでしたが。
だから、本当に重要な点とは
「この言葉から何を感じるか(何も感じない、も含めて)」
とか
「どういう文脈で使われたのか」
とか
「どのように受け止められたのか」
といった部分にきっとあるのでしょう。
…師匠、それが一番むずかしいよ〜。
というわけで、お読みいただきありがとうございました!
あらゆる意味で先の読めない剣盾編の行方、わたしは楽しみ半分不安半分です。
もう来月にはスカーレット・バイオレット発売だもんなぁ…
どういう形でも(どんな掲載媒体でも)ちゃんと終わってくれたらそれだけで嬉しいな〜。
それでは〜!
*1:マナブくん、ちゃんと「未曾有」という言葉も読み方も知っていてえらい